不競合阻害(反競合阻害)とは?|Km・Vmaxがともに低下する理由を解説
酵素阻害には、競合阻害、非競合阻害、不競合阻害などがあります。
このうち不競合阻害(uncompetitive inhibition、反競合阻害)でまず押さえておきたいのは、次の3点です。
- 阻害物質は酵素‐基質複合体(ES)に結合する
- 見かけのKmは低下する
- 見かけのVmaxも低下する
つまり、
不競合阻害:Km↓、Vmax↓
です。
競合阻害の「Km↑、Vmax不変」や、純粋な非競合阻害の「Km不変、Vmax↓」とは異なります。
さらに、Lineweaver–Burkプロットでは、KmとVmaxが同じ割合で低下するため、阻害物質の有無で直線が平行になることが大きな特徴です。
この記事では、不競合阻害でなぜKmとVmaxがともに低下するのかを、酵素反応のしくみから順番に解説します。
Contents
まず押さえる:不競合阻害ではKm↓、Vmax↓
代表的な可逆的酵素阻害を比較すると、次のようになります。
| 阻害様式 | 阻害物質の結合 | 見かけのKm | 見かけのVmax |
|---|---|---|---|
| 競合阻害 | 主に遊離酵素Eに結合 | 上昇 | 不変 |
| 純粋な非競合阻害 | EとESに同程度に結合 | 不変 | 低下 |
| 不競合阻害 | ESに結合 | 低下 | 低下 |
不競合阻害については、
「ESに結合する → Km↓、Vmax↓」
を最初に覚えておきましょう。
ただし、Kmが低下する理由については少し注意が必要です。
単純に「基質との親和性が高くなったから」とだけ覚えるのではなく、不競合阻害では見かけのKmが低下していると理解することが重要です。
不競合阻害とは
通常の酵素反応を単純化すると、次のように表せます。
E + S ⇄ ES → E + P
Eは酵素、Sは基質、ESは酵素‐基質複合体、Pは生成物です。
不競合阻害では、阻害物質Iは遊離した酵素Eには結合せず、基質が結合したES複合体に結合します。
ES + I ⇄ ESI
このESI複合体は、単純な不競合阻害モデルでは生成物をつくることのできない不活性な複合体として扱います。
つまり、基質が酵素に結合してESができた後に、阻害物質がそのESを「捕まえる」ようなイメージです。
この性質が、不競合阻害に特徴的なKmとVmaxの変化を生みます。
なぜ不競合阻害ではVmaxが低下するのか
まず、Vmaxが低下する理由は比較的わかりやすいです。
不競合阻害では、
ES → E + P
と進めるはずだった酵素‐基質複合体の一部が、阻害物質と結合して
ES → ESI
となります。
ESIは生成物をつくらないため、その分だけ反応に利用できる酵素が減ります。
したがって、基質濃度を十分に高くしても、阻害物質が存在しない場合と同じ最大反応速度には到達できません。
その結果、
Vmaxは低下します。
これは非競合阻害と共通する特徴です。
ただし、不競合阻害では阻害物質がESに結合するため、基質濃度を上げても競合阻害のように阻害を打ち消すことはできません。
むしろ基質が増えてESが多くなると、阻害物質が結合できるESも増えるため、不競合阻害の影響は現れやすくなります。
なぜ不競合阻害ではKmも低下するのか
不競合阻害で最も理解しにくいのが、
「なぜKmが低下するのか」
という点です。
Kmは、ミカエリス・メンテン型の反応では、
反応速度がVmaxの1/2になるときの基質濃度
として定義されます。
不競合阻害では阻害物質がESに結合してESIを形成するため、酵素はEよりもESあるいはESIのような基質が結合した状態に偏りやすくなります。
その結果、阻害物質がない場合より低い基質濃度で、低下したVmaxの1/2に達するようになります。
したがって、
見かけのKmは低下します。
ここで重要なのは、
「Kmが低下した=酵素と基質の本来の結合親和性そのものが必ず高くなった」
と考えないことです。
Kmは一般に基質の解離定数Kdそのものではなく、酵素反応の複数の速度定数から決まる値です。
したがって、不競合阻害では、
見かけ上、Kmが低下する
と表現するのがより正確です。
国試レベルでは「Kmが小さいほど基質親和性が高い」と整理することがありますが、不競合阻害を機構的に理解するときには、この点を区別しておくとよいでしょう。
式でみるとKmとVmaxが同じ割合で低下する
不競合阻害では、阻害物質濃度を[I]、ESに対する阻害定数をKi′として、
α′ = 1 + [I]/Ki′
とおくことができます。
このとき反応速度は、
v = Vmax[S] / {Km + α′[S]}
と表せます。
これをミカエリス・メンテン式と同じ形に整理すると、
Vmax(app) = Vmax / α′
Km(app) = Km / α′
となります。
つまり、不競合阻害では見かけのVmaxとKmが、どちらも同じα′で割られます。
したがって、
- Vmaxは低下する
- Kmも低下する
- しかも両者は同じ割合で低下する
という特徴が生じます。
この「同じ割合で低下する」という性質が、Lineweaver–Burkプロットで重要になります。
Lineweaver–Burkプロットでは平行線になる
不競合阻害の特徴は、Lineweaver–Burkプロットで特に明瞭に表れます。
Lineweaver–Burkプロットでは、
- 縦軸:1/v
- 横軸:1/[S]
- 縦軸切片:1/Vmax
- 横軸切片:-1/Km
- 傾き:Km/Vmax
です。
不競合阻害ではKmとVmaxが同じ割合で低下します。
したがって、
Km/Vmax
の比は変化しません。
つまり、Lineweaver–Burkプロットの傾きは変わりません。
その結果、阻害物質なしと阻害物質ありの直線は、
平行になります。
これが不競合阻害を見分ける非常に重要な特徴です。
一方、Vmaxは低下するため、
1/Vmaxは増加
し、縦軸切片は上方へ移動します。
Kmも低下するため、
-1/Kmはより負の値
となり、横軸切片は左側へ移動します。
したがって、不競合阻害では、
- 傾き:変化しない
- 縦軸切片:上昇
- 横軸切片:左へ移動
- 直線:平行
と整理できます。
競合阻害・非競合阻害・不競合阻害を比較
3つの阻害様式をまとめると、次のようになります。
| 項目 | 競合阻害 | 純粋な非競合阻害 | 不競合阻害 |
|---|---|---|---|
| 主な結合対象 | E | EとES | ES |
| Km | ↑ | → | ↓ |
| Vmax | → | ↓ | ↓ |
| 基質を増やしたとき | 阻害を打ち消せる | 打ち消せない | 打ち消せない |
| Lineweaver–Burk | 縦軸上で交差 | 横軸上で交差 | 平行 |
| 覚え方 | 競争なので基質で勝てる | 酵素活性を下げる | ESを捕まえる |
特に試験では、
競合:Km↑、Vmax→
純粋な非競合:Km→、Vmax↓
不競合:Km↓、Vmax↓
という組み合わせをまず確実に区別しましょう。
なお、「非競合阻害」についてKmが不変となるのは、阻害物質がEとESに同じ程度の親和性で結合する純粋な非競合阻害(pure noncompetitive inhibition)の場合です。
EとESに対する阻害物質の結合の強さが異なる場合には混合阻害となり、Kmも変化します。
国家試験などの基本問題では、通常は純粋な非競合阻害を想定して「Km不変、Vmax低下」と整理します。
不競合阻害は基質を増やせば解除できる?
できません。
ここは競合阻害との重要な違いです。
競合阻害では、基質と阻害物質が酵素を取り合います。
そのため、基質濃度を十分に高くすると、基質が阻害物質との競争に勝ちやすくなり、Vmaxには到達できます。
一方、不競合阻害では、阻害物質は基質と酵素を取り合っているわけではありません。
阻害物質が結合する相手は基質がすでに結合したESです。
したがって、基質を増やしても阻害を解除できません。
むしろ、
基質↑ → ES↑ → 阻害物質が結合できるESも↑
となるため、競合阻害とは逆の考え方になります。
国試・試験での覚え方
不競合阻害は、
「基質が結合してから阻害物質がやってくる」
と考えると覚えやすくなります。
まず、
E + S → ES
となり、その後、
ES + I → ESI
です。
つまり、阻害物質はESを捕まえます。
その結果、
ESを捕まえる
→ 生成物をつくれない
→ Vmax↓
さらに、
基質が結合した状態が安定化される
→ 見かけのKm↓
と整理します。
最終的には、
不競合阻害=ESに結合=Km↓・Vmax↓=Lineweaver–Burkで平行
まで一続きで覚えておくとよいでしょう。
よくあるひっかけ
Kmが低下するので反応が促進されると考える
これは誤りです。
不競合阻害ではKmが低下しますが、同時にVmaxも低下します。
Vmaxの低下は、その酵素反応で到達できる最大速度そのものが低下していることを意味します。
したがって、Kmだけを見て「酵素活性が高くなった」と判断してはいけません。
Km低下を基質親和性の上昇と完全に同一視する
国試レベルではKmが小さいほど基質親和性が高いと説明されることがあります。
ただし、不競合阻害によるKm低下は見かけのKmの変化です。
Kmは必ずしも基質の解離定数Kdと同じではないため、「酵素自体の本来の基質結合能が強くなった」とまでは断定しない方が正確です。
基質濃度を上げれば阻害を解除できると考える
基質を増やして阻害を打ち消せるのは競合阻害です。
不競合阻害では阻害物質がESに結合するため、基質濃度を増やしてもVmaxは回復しません。
非競合阻害と不競合阻害を混同する
名称が似ていますが、Kmの変化が異なります。
純粋な非競合阻害:Km→、Vmax↓
不競合阻害:Km↓、Vmax↓
です。
試験で問われやすいポイント
不競合阻害では、次の内容を関連づけて押さえましょう。
- 阻害物質はESに結合する
- 遊離酵素Eには基本的に結合しない
- 見かけのKmは低下する
- 見かけのVmaxも低下する
- KmとVmaxは同じ割合で低下する
- 基質濃度を増やしても阻害を解除できない
- Lineweaver–Burkプロットでは平行線になる
- 縦軸切片1/Vmaxは上昇する
- 横軸切片-1/Kmは左へ移動する
この中でも、
ESに結合 → Km↓・Vmax↓ → 平行線
の3点を軸に考えると整理しやすくなります。
確認問題
確認問題1
不競合阻害物質が存在するとき、見かけのKmとVmaxはどのように変化するか。
- Km上昇、Vmax不変
- Km不変、Vmax低下
- Km低下、Vmax低下
- Km低下、Vmax不変
正答は、
3. Km低下、Vmax低下
です。
不競合阻害では阻害物質がESに結合し、見かけのKmとVmaxがともに低下します。
確認問題2
不競合阻害物質が主に結合するのはどれか。
- 遊離した基質S
- 遊離した酵素E
- 酵素‐基質複合体ES
- 生成物Pのみ
正答は、
3. 酵素‐基質複合体ES
です。
不競合阻害では、基質が酵素に結合した後のESに阻害物質が結合します。
確認問題3
不競合阻害におけるLineweaver–Burkプロットの特徴として正しいのはどれか。
- 阻害物質の有無で直線が平行になる
- 縦軸上の同一点で交差する
- 横軸上の同一点で交差する
- 阻害物質によって傾きだけが低下する
正答は、
1. 阻害物質の有無で直線が平行になる
です。
不競合阻害ではKmとVmaxが同じ割合で低下するため、Km/Vmaxで表される傾きは変化しません。
確認問題4
不競合阻害について正しいのはどれか。
- 基質濃度を十分に高くするとVmaxは阻害前の値まで回復する
- 阻害物質は基質と活性部位を競合する
- 見かけのKmの低下だけを根拠に、酵素活性が高くなったと判断できる
- 基質濃度を高くしても競合阻害のように阻害を解除することはできない
正答は、
4. 基質濃度を高くしても競合阻害のように阻害を解除することはできない
です。
不競合阻害物質はESに結合するため、基質を増加させても阻害物質との競争によって置き換えることはできません。
まとめ
不競合阻害(反競合阻害)は、阻害物質が酵素‐基質複合体ESに結合する阻害様式です。
最も重要なポイントは、
不競合阻害:Km↓、Vmax↓
です。
また、KmとVmaxが同じ割合で低下するため、
Lineweaver–Burkプロットでは平行線
になります。
競合阻害・非競合阻害と比較すると、
- 競合阻害:Km↑、Vmax→
- 純粋な非競合阻害:Km→、Vmax↓
- 不競合阻害:Km↓、Vmax↓
となります。
不競合阻害を理解するときは、
ESに結合 → Km↓・Vmax↓ → Lineweaver–Burkで平行
という流れで整理すると覚えやすくなります。
競合阻害・非競合阻害との違いについては「競合阻害と非競合阻害の違い|Km・Vmaxの変化をわかりやすく解説」、グラフの読み方については「Lineweaver–Burkプロットの読み方|Km・Vmax・阻害様式をわかりやすく解説」もあわせて確認すると、3種類の阻害様式を整理しやすくなります。
